LOGINエルネ城の城壁沿いの脇道を進むエステルたち。城はかなりの大きさなので当然その敷地は非常に広大である。門番に聞いた話では裏手の方に回り込むらしい。
「城の裏側……ここからでも結構遠いな。もうあまり時間がないから走るか」 「おっけ〜!」 そして二人は一旦立ち止まってから前屈みになり…… ドンッ!!ドンッ!! と、踏み込みの大きな音を響かせて瞬時にトップスピードに乗る。そして衝撃波すら伴ってあっという間にその場を走り去ってしまった。 たまたま朝の散歩をしていた老紳士が、驚きのあまり腰を抜かしてへたり込むのに彼らは気が付かなかった…… ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 「おっと!!あそこみたいだぞ!」 「いっぱい人が集まってるね!!」 走り出してからそれほど経たないうちに、多くの人集りが二人の行先に見えてきた。帯剣した若者たちの……その出で立ちや雰囲気からして、騎士志望者の集団で間違いないだろう。 ザザーーーッッ!!! あっという間にそこに近付くと、集団の直前でエステルたちは急制動をかけて止まる。あまりの勢いだったものだから、もうもうと盛大に土煙が舞った。 ド派手な二人の登場に好奇の視線が集まる。特にエステルは、その美少女ぶりも相まって無数の視線が突き刺さるが、当人はどこ吹く風である。 さて……彼らがやってきた場所は、門番に聞いた通り城壁に沿ってぐるっと城を回り込んだ裏側。かなりの広さを持つ広場だ。石畳に覆われて街路樹なども整備された王城前広場に対して、こちらは土がむき出しの地面という殺風景な場所である。 ここは王国騎士団の騎士や衛兵たちが大規模な訓練を行うめの演習場で、その王城寄りには王国騎士団本部の建物が建っていた。 本部というだけあって、かなり大きな建物だ。ここには事務所、作戦会議室、屋内訓練場、宿舎、食堂などがあり、騎士団の活動に必要な機能が備わっている。 「もし合格すれば……ここで俺たちも働くことになるかな?」 「そだね〜、がんばろっ!!」 「おいおいおい、冗談はよしてくれ。お前たちみたいな田舎モンのガキどもが合格出来る訳ないだろ?」 エステルたちが話をしていると、そんなふうに彼らを馬鹿にするような言葉をかけてくる者がいた。自殺志願者だろうか。 二人が声のした方を振り向くと、そこには筋骨隆々の巨漢が立っていた。エステルなど彼の胸元までしか頭が届かないほど。短く刈り込んだ黒髪、その体躯に見合った厳つい容貌。 その顔には、ニヤニヤと人を小馬鹿にするようないやらしい笑みが浮かんでいる。 「なんだ、お前?」 「はわ〜……おっきいなぁ……」 クレイは不機嫌そうに返し、エステルは男の顔を見上げて目を丸くして驚いている。 「わざわざ田舎から出てきたのに残念だな。恥をかかないうちに帰り支度したほうが身のためだぜ?」 二人の服装などから王都外から来たのだと当たりをつけたのだろう。そして、二人はパッと見では強そうに見えないので、少しでも優位に立とうと威圧してきたようだ。先程の非常識なスピードで走って登場したのを見れば、彼らが只者ではないことが分かりそうなものであるが…… 「余計なお世話だな。他人の心配より自分の心配をしたらどうだ?物語なんかでよくあるだろ?大口叩くデカブツは、大抵が噛ませ犬だ」 と、クレイは辛辣に返した。 彼は慎重派で余計な事には首を突っ込まない主義だが……シモンの民たる者、売られた喧嘩はきっちり買うのだ。 「んだとぉ……てめえ、その言葉……後悔するなよ!!」 クレイの言葉に怒りをあらわにするが、ここで揉め事を起こさないくらいの分別はあるらしい。そして、次はエステルに視線を向けて捨て台詞を吐こうとするが…… 「そっちの女も、そんな細腕で騎士が務まると思ったら大間違い…………!!?」 男はエステルの顔を見て、雷に打たれたように固まった。 「?……どうしたの?」 クレイと大男の険悪な雰囲気は気にもせず、ほぇ〜……と男を眺めていたエステルは、急に固まった彼の様子に怪訝そうに訪ねた。 「!?いや、何でもねえ!!……ふんっ!せいぜい頑張ることだな!!」 「うん!!頑張るよ!!ありがとうね!!」 最後の捨て台詞にも、エステルは言葉通りの意味に受け取ってお礼の言葉を返す。それに面食らった男は、顔を赤らめてその場を離れていってしまった…… (……惚れたな。全く、どいつもこいつも見た目に騙されやがって) 去り際の様子で男の心情を察したクレイは、内心でそんな事を思うのだった。「時間だ!!騎士志望の者たちは集まれ!!」他の受験者たちと一緒に暫くその場で待っていると、数人いた試験官の騎士らしき人物の一人が声を張り上げた。どうやら時間になったようだ。ぞろぞろと試験官の下に集まる受験生たち。エステルとクレイもそれに合わせて移動する。「よし、集まったな。これより王国騎士団登用試験を始める訳だが……先ずは試験の流れを説明しよう」そう言って試験官の騎士は説明を始めた。まず最初に本人確認。正規の手続きが行われた当人であるのかを確認する。当然飛び入り参加は不可だ。続いて筆記試験。一般常識、教養や倫理観を問うものが出題される。騎士は脳筋には務まらないのだ。(……筆記試験があるなんて聞いてないよ!?)(……デニス様から説明があったし、手続きするときにも言ってたぞ)もちろん聞いてないし、聞いてたとしても覚えてないのがエステル・クオリティだ。(え〜……どうしよう、自信がないよ……)(大丈夫だろ。お前だって勉強が出来ないわけじゃないだろ?)彼らは読み書きはもちろん、王都の初等〜中等学校で習うようなことはジスタルやエドナ、村の長老たちから教えてもらっている。エステルはこう見えても成績は優秀である。……一般常識については些か不安が残るが。「そこ!!無駄話はするな!!」「「はい!!すみません!!」」怒られた。次に面接。騎士たる者、人格面でも優れていなくてはならない。時に身分の高い要人の護衛任務などもあるため、腕っぷし自慢なだけのゴロツキを採用するわけにはいかないのだ。そして最後に実技試験だ。何だかんだで、やはり騎士の評価は戦闘能力が大きなウェイトを占める。騎士団には事務職員も多くいるが、それは採用枠が別だ。「ガイダンスは以上だ!!何か質問がある者はいるか!?……………大丈夫そうだな。それでは、受験者の確認を行うから、列を作って順番に並ぶんだ。王都地区出身者はここ、北部地域はこっち、西部地域は…………」スムーズに確認するため、どうやら出身地域別に列を作って並ぶようだ。「えっと、私達は西部地域で良いんだよね?」「そうだな。俺たちも並ぼう」
エルネ城の城壁沿いの脇道を進むエステルたち。城はかなりの大きさなので当然その敷地は非常に広大である。門番に聞いた話では裏手の方に回り込むらしい。「城の裏側……ここからでも結構遠いな。もうあまり時間がないから走るか」「おっけ〜!」そして二人は一旦立ち止まってから前屈みになり……ドンッ!!ドンッ!!と、踏み込みの大きな音を響かせて瞬時にトップスピードに乗る。そして衝撃波すら伴ってあっという間にその場を走り去ってしまった。たまたま朝の散歩をしていた老紳士が、驚きのあまり腰を抜かしてへたり込むのに彼らは気が付かなかった…… ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆「おっと!!あそこみたいだぞ!」「いっぱい人が集まってるね!!」走り出してからそれほど経たないうちに、多くの人集りが二人の行先に見えてきた。帯剣した若者たちの……その出で立ちや雰囲気からして、騎士志望者の集団で間違いないだろう。ザザーーーッッ!!!あっという間にそこに近付くと、集団の直前でエステルたちは急制動をかけて止まる。あまりの勢いだったものだから、もうもうと盛大に土煙が舞った。ド派手な二人の登場に好奇の視線が集まる。特にエステルは、その美少女ぶりも相まって無数の視線が突き刺さるが、当人はどこ吹く風である。さて……彼らがやってきた場所は、門番に聞いた通り城壁に沿ってぐるっと城を回り込んだ裏側。かなりの広さを持つ広場だ。石畳に覆われて街路樹なども整備された王城前広場に対して、こちらは土がむき出しの地面という殺風景な場所である。ここは王国騎士団の騎士や衛兵たちが大規模な訓練を行うめの演習場で、その王城寄りには王国騎士団本部の建物が建っていた。本部というだけあって、かなり大きな建物だ。ここには事務所、作戦会議室、屋内訓練場、宿舎、食堂などがあり、騎士団の活動に必要な機能が備わっている。「もし合格すれば……ここで俺たちも働くことになるかな?」「そだね〜、がんばろっ!!」「おいおいおい、冗談はよしてくれ。お前たちみたいな田舎モンのガキどもが合格出来る訳ないだろ?」エステルたちが話をしていると
エステルたちが王国騎士団の登用試験受験の手続きを行ってから10日が経った。今日はいよいよ試験の本番だ。結局最後まで一人部屋の空きがある宿が見つからず、この日まで二人はずっと同じ部屋で寝泊まりしていた。特に間違いは起きていない。クレイ的には鋼の自制心なんてものも特に必要はなかった。……健全な男子として、それはどうなのだろうか? ともかく、朝早くから起きて支度をしなければならないのだが……「ほら、早く起きろって!試験に間に合わないぞ!!」「うにゅ〜…………あと一日〜」「二度寝のレベルじゃねえっ!?」エステルは本来、朝が苦手というわけではない。むしろ誰よりも早く起きて、朝からうるさ……元気一杯である。では、なぜ彼女がこんな状態かというと……「どんだけ楽しみにしてたんだよ……」今日の試験が楽しみで、興奮しすぎて眠れなかったのだ。エステルは毎日きっちり10時間は寝ないと調子が出ないお子様だ。「ほら、今日を逃したら次はまた来年だぞ?」「う〜……わかったよぉ……」クレイが布団を無理矢理はがすと、彼女はようやく目をこすりながら起きだした。寝間着が着崩れてあられもない格好だが、もうクレイの心は特に波立たない。まったくの凪である。「あ〜……寝癖がついてんぞ。ああ、よだれの跡も……さっさと顔を洗ってこい」「ふぁ〜ぃ…………ねむ……」完全にオカンと子供のやり取りだ。そうやって何とかエステルに支度をさせて、二人はどうにか宿を出発することができた。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆「よ〜し、頑張るぞ〜!!」朝のテンションの低さとはうってかわって、元気いっぱいやる気十分のエステルだ。まだ朝靄に煙る街路を王城に向かって二人は歩く。騎士団登用試験は王城にある王国騎士団本部にて行われる事になっている。「そういやお前……王城でアランさんに会ったんだっけ?」あの日、王城の中をアランに案内してもらった事はクレイにも話している。しかし、後宮で襲撃されたことは話をしていない。別に隠してるわけではない。単に忘れただけだ。「うん!!色々案内してくれたんだよ」「そうか……(やはり貴族……それもかなり高位だろう。それに、やっぱりコイツに惚れたのか?)」鼻歌すら歌い出しそうな上機嫌で前を行くエステルをぼんやりと眺めながらクレイは考える。(あまり深入りしない方が良
後宮にて何者かの襲撃を受けたエステル。アランには『気にするな』と言われたが、流石の彼女も全く気にしないで忘れる……と言う事は無かった。「何だったんでしょうね……?アランさん、心当たりは無いんですか?」「どうだろうな?無い訳では無いが……それほど心配する必要は無いだろう」「……?」「とにかく。また襲撃されても面倒だからな。今日はこれくらいにしておくか。エステル、城門まで送ってやろう」そう言ってアランは案内を終えることを告げた。「今日はありがとうございました!アランさん!!」「いや、礼にはおよばない。俺も君を案内できて楽しかった。またいつでも来てくれ」「はい!!それじゃ、さようなら~!!」城門で二人は別れる。エステルは途中何度も振り返って大きく手を降っていた。アランは彼女の無邪気な様子に苦笑しながら、軽く手を振り返して見えなくなるまで見送るのだった。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆「失礼します、陛下」エステルと別れ、執務室で溜まった書類仕事をするアラン。既に魔法は解除して、本来の姿に戻っている。今日もフレイがどっさりと持ってきた大量の書類に溜め息をつきながらも、黙々と作業を進めていた。そして、何度目かの溜め息をつこうとしたその時、何者か執務室の扉がノックされる。アランが入室の許可を出すと、茶髪に茶色の瞳の一見して目立った特徴もない男が部屋に入ってきた。アランは彼を見て、からかうような調子で言った。「どうだった?彼女は」「どうだった……じゃないですよ!!危うく死にかけましたよ!?」「よくあの一撃から逃げおおせたものだ」「……他人事みたいに言わないでください。本当にギリギリでしたよ。あと一瞬撤退が遅れていたら……今頃、森の木と一緒に真っ二でしたよ、俺は……」それを想像して青ざめる男。「突然あんな命令されるんですから……びっくりしましたじゃないですか。で、指令通り襲ってみれば、あんな化け物相手だったなんて……」そう。先程の後宮での襲撃は、彼の手によるものであり、それを指示したのはアランなのであった。廊下で使用人とすれ違ったとき、エステルに気付かれないように指令の手紙をこっそり渡していたのだ。その目的とは、果たして……「お陰で彼女の実力が良く分かった。……いや、まだあんなものではないと思うが、一端は知ることができたな。感
無人の後宮を散策するエステルたち。しっかりと手入れされ、美しい花々が咲き誇る庭園を彼女は心から楽しんでる。もしこの場にクレイがいたのならば「お前に花を愛でる感性があったなんて……」などど、失礼な事を言うに違いない。「広くて良いですね〜。キレイな花を見ながら鍛錬するのも楽しそう!」……やはりエステルはエステルだった。きっとクレイも納得するはず。「ふ……本当に剣術が好きなんだな、エステルは」「はい!……でも、王都に来てから中々鍛錬が出来なくて。鈍ってないないか心配です」シモン村では毎日剣術の鍛練を欠かさなかったエステル。だが、ここ数日はそれを果たすことができずに焦りの気持ちが生じてるのだ。「一度、宿の前でやろうとしたんですけど、クレイに止められたんです」「あ〜……確かに奇異の目は向けられそうではあるな」因みに彼女は今、帯剣している。本来の得意武器である大剣ではなく、小振なショートソードではあるが。本来は、騎士や衛兵でも無い限り王城内での武装は特別な許可が必要なのだが、アランと一緒にいるため見咎めるものは居なかったのである。「騎士になれば騎士団の訓練場で好きなだけ剣をふれるから、それまでは我慢することだ」「う〜」我慢しろと言われ、ぷく〜……と頬を膨らませるエステル。その様子が可笑しくて、アランは笑いを抑えることができない。「ははは!そんなにむくれるな。もう、あと数日だろう?」「むう……まぁ、しょうがないか。でも騎士になったら取り戻さないと!!」もはや鍛練中毒とすら言えそうな彼女であった。そうやって……実態はともかく、傍から見ればまるで恋人同士のように仲睦まじく語らいながら二人は庭園を散策する。そして、次は宮殿の中も見学しようか……と、更に進もうとした時だった。「……アランさん。誰かいます」突然、普段の脳天気とも言えるくらいに快活なエステルの雰囲気が一変する。アランは、その変わりように驚きをあらわにするが……直ぐに自身も不穏な空気を察知した。「これは……殺気?」「はい、誰かが私達を狙ってます。…………っ!!」何かが自分たちに向かって飛来するのを敏感に察知したエステルが、腰に下げていた剣を抜き放つ!!キィンッ!!キキィンッッ!!目にも止まらぬ速度で振るわれた彼女の剣は、猛スピードで飛来した何本もの矢を尽く打ち払った!!ヒュ
アランに案内されて王城見学をするエステル。中央庭園を後にした二人は、更に城の奥に進むが……「さて、ここからは一般人は入ることが出来ない場所だな」「え?入っていいんですか?」「ああ、大丈夫だ」アランは特に気にした風もなく、庭園から奥へと続く廊下を目指して歩いて行く。当然ながら行く先には見張りの衛兵が、一般人がこれ以上入ってこないように監視の目を光らせていた。しかし、アランは歩みを止めず堂々としたものだ。二人が近付くと、衛兵は静止させるべく動こうとしたが……アランの顔を確認すると再び定位置に戻って不動の体勢になった。「ご苦労」「「はっ!!」」アランが軽く手を上げて労いの言葉をかけると衛兵たちは、さっ……と敬礼する。「こんにちは〜!!」エステルが元気な挨拶をすると、少し驚いた表情になったが、無言を貫いてそのままの姿勢で二人が奥へと進むのを見届けるのだった。「えっと……アランさんって、もしかして偉い人なんですか?」「ん…………まぁ、気にするな」問われて彼は少し口籠って答えを濁す。素直なエステルは、「気にするな」と言われて、その言葉通りに気にしないことにした。エステル・ブレーンの思考回路は至ってシンプルなのである。さて、先程までは多くの一般人、観光客が周りにいたが、いま歩いている城内の廊下は閑散としたものだ。ときおり城の使用人らしき人とすれ違うが、誰も彼もアランを見ると邪魔ならないように脇に避けて、頭を下げて二人が通り過ぎるまでその場で待機するのだった。そんな光景を見てもエステルはもう気にしないで、キョロキョロと物珍しそうに城内の調度品などを眺めながら歩く。……素直すぎる娘である。そうやって暫く廊下を歩いていると、やがて二人は城の裏手から外に出て、先程の庭園と比べて倍ほどに広い美しい庭園にやって来た。「うわぁ……さっきよりも凄く広い!!お城の中にこんなに広い場所があるんですね!ここは何なのですか?」「ここは後宮だ。今は使われていないから、誰もいないが……手入れはされているから中々見応えがあるだろう?」アランが案内してきたのは、王城の最も奥まった場所にある後宮であった。先程の中央庭園とは異なる色鮮やかな花々が咲き誇り、中央部分には清らかな水を称える大きな池が。その周囲には後宮に住まう女性たちが語らうであろう|四阿《ガゼボ》が設けられ







